社長メッセージ

品質と信頼性を追求し、新たな顧客価値の創造により、

ESG課題解決と収益向上の好循環を実現し、

持続可能な成長を目指していきます

リスクを機会と捉え、競争力へとつなげる

私たちを取り巻く経営環境の変化は更に激しさを増しています。世界的な地政学リスクをはじめ、経済安全保障リスク、気候変動リスク、サイバーセキュリティリスクなどさまざまなリスクが複雑に絡み合い、ますます不透明で将来の予測が難しい時代になっていることを実感します。

こうしたなか、2023年度の業績を振り返ると、連結売上高3兆8,651億円(前年度比9.1%増加)、営業利益6,072億円(前年度比23.7%増加)と過去最高売上高・利益を達成することができました。鉱山機械や部品売上げの好調、販売価格の改善効果や円安の影響などが要因として挙げられますが、リスクへの対応をしっかりと行い、外部環境の影響を受けにくい体質を継続して構築してきたことが成果として表れてきたと感じています。

特にサプライチェーンのリスクについては、従来から影響を最小限に抑えるべく取り組みを強化してきました。コロナ禍においては、社会全体でサプライチェーンが非常に混乱しましたが、コマツの場合は、地域間で製品・部品を相互に供給するフレキシブルな生産体制を構築しており、迅速に柔軟な対応ができました。この生産体制を「グローバル・クロスソーシング」と呼んでおり、その時々の為替、各拠点の生産能力やコスト競争力、各地域の需要動向を考慮し、最適な拠点から各市場へ製品・部品を供給していく体制構築に継続して取り組んでいます。また、それに加え、同一の部品につき、複数の調達先を確保する「マルチソーシング」についても、リスク分散策の一つとして強化してきました。

さらに今後は平時のリスク管理を強化することがより重要です。コマツは、ERM(Enterprise risk management:全社的リスク管理)の仕組みを導入し、全社的観点でのあらゆるリスクの洗い出し、評価、リスク抑制に向けた活動を推進しています。備えを強化してリスクの低減、回避に努めながら、これを好機と捉えて積極的に挑戦し、更なる競争力の向上につなげていきたいと考えています。

コンポーネント戦略を強みに、アフターマーケットで稼ぐ力を伸ばす

もう一つ、業績の好調を大きく牽引しているのがアフターマーケット事業です。アフターマーケットとは、お客さまに新車を購入いただいたあとの部品交換やメンテナンスなどを指しますが、コマツでは既に建設機械・車両事業売上高の約5割、利益では約6割をアフターマーケットが占めています。新車販売は経済状況によって需要が大きく変動する傾向がありますが、アフターマーケットの需要は、既に市場に出ている建設機械の稼働台数によるため、売上げが安定して見込めます。

現在、コマツの機械は世界で約77万台が稼働しており、この台数を維持・向上していくことによって、景気に左右されにくい安定した収益を実現することができます。

そして、このアフターマーケットの収益性を支えているのが、「重要コンポーネント(キーコンポーネント)の自社開発・自社生産」です。建設機械本体での差別化が難しくなるなか、コマツは建設機械の性能を左右するエンジン、トランスミッションや油圧機器などのキーコンポーネントを自社で開発・生産しており、これがコマツの競争力にとって非常に重要な要素となっています。これらを内製化しているからこそ、機種に応じたベストなコンポーネントの組み合わせや先進技術を商品開発に織り込むことができます。センサーをコンポーネントに搭載すれば、その耐久性をKomtrax(機械稼働管理システム)によりモニタリングでき、データに基づいた適切なタイミングでの修理のご提案が可能になります。またコンポーネントの耐久性、信頼性を把握することで、メンテナンス付き延長保証契約を提供できるため、お客さまには機械を安心して使っていただき、純正部品の購入にもつながります。さらにコンポーネントを適切なタイミングで回収し、高品質なリマン製品(再生品)として提供でき、中古車の価値も上がります。このように、自社でコンポーネントの開発・生産を担っているからこそ、QCD(品質・価格・納期)をコントロールしてビジネスモデルを確立できる点がコマツの強みであり、差別化のポイントだと認識しています。

電動化建機の市場形成を見据えて取り組みを加速

持続可能な成長を目指すうえで、もう一つ欠かせないキーワードが「脱炭素」です。コマツでは現在の中期経営計画(2022〜2024年度)において、2050年にカーボンニュートラルを実現することをチャレンジ目標として掲げました。この目標に対して、取り組むべき課題や施策を全社で考え続けています。その答えの一つが2023年度に日本や欧州で販売・レンタルを開始した電動化建機です。電動化建機は導入コストや給電のインフラ整備にハードルがあり、いまだ市場が形成されていない状況ですが、コマツでは7機種の電動化建機を新たに市場導入するなど、市場形成に向けた取り組みを更に加速させていく方針です。

脱炭素に向けた潮流はもはや不可逆的であり、今後はいずれ、カーボンプライシングや炭素税など各種の規制や規格が整備されてくると見ています。そうした状況では、環境に優しい建設機械を必要とされるお客さまが必ず現れてくるため、今のうちからしっかりと水素エンジンやカーボンニュートラル燃料などを含め、全方位的に研究・開発を進めていくことが重要であると考えています。

しかしながら、電動化技術などについては、現時点で社内に知見が蓄積されていないため、パートナーと協働しながら開発を進めていく必要があります。将来の技術開発に向けて、2023年度はバッテリーメーカーであるAmerican Battery Solutions社(ABS社、アメリカ)がグループに加わりました。また、ゼネラルモーターズ社(アメリカ)と、超大型ダンプトラック向け水素燃料電池モジュールの共同開発契約も締結しました。

これらのM&Aや技術提携の取り組みは、将来の電動化建機に関わるキーコンポーネントの技術の手の内化を目指すものであり、建機が電動化に移行した場合のアフターマーケットの拡大・更なる収益拡大を見据え、着実に種まきを行っていきます。

2023年度にグループに加わったAmerican Battery Solutions社を見学する様子

理想として描く未来に向けたコマツのアプローチ

コマツが目指す姿は、「安全で生産性の高いスマートでクリーンな未来の現場をお客さまと共に実現する」ことです。例えば、カーボンニュートラルと経済成長が両立した持続可能な社会、DXを通じて国境を超えて世界中の英知が集まり、さまざまな社会課題の解決が可能となる社会、そのような未来を理想として描いています。このビジョンを実現するために、製品(モノ)とソリューション(コト)の両軸でお客さまの価値を創造していくことが私たちの考えです。

製品だけでいうと、どれだけ先進的なものであっても、いずれは差別化が難しくなっていきます。そのため、ソリューションを組み合わせた両軸で成長曲線を描いていかなければ組織の成長は止まってしまうでしょう。コマツでは、進歩が目覚ましいアプリケーションやプラットフォームなどのデジタル技術については、コマツからカーブアウトさせた、あるいはM&Aにより買収したグループ会社において、開発を加速させています。ソリューション(コト)で新たな価値を提供し、そのソリューションと親和性の高い製品(モノ)を提供することで、コマツらしい顧客価値(=ダントツバリュー)を生み出していくことを目指していきます。

そこで重要になってくるのが研究開発のスピード感です。元々コマツはTQM(Total quality management:総合的品質管理)で成長してきた会社であり、時間をかけて開発して品質保証したものを世に出していくことに主眼をおいた開発になりがちです。しかし昨今のソリューションビジネスのスピードを見ると、トライ&エラーをしながら速いスピードで開発を進めることが必要です。外部のパートナーと組んで開発を進めていくということは、この開発文化を受け入れ、スピード感を上げるためにも必須の取り組みであると考えています。

とはいえ、やはり品質も妥協してはいけません。コマツの「経営の基本」は、「品質と信頼性」の追求により、社会を含むすべてのステークホルダーからの信頼度の総和(=企業価値)を最大化すること、そして「ものづくりと技術の革新」はコマツのDNAであり、時代が変わろうとも変えてはならないものだと考えています。

グループ全員で価値観を共有し、グローバルでのプレゼンスを高める

そうしたDNAを守り、伝えていくのは、やはり「人」です。コマツグループにはグローバルに65,000人を超える社員がいますが、約7割は日本以外の国で働いています。こうした多様な人材が一つのビジョンに向かっていくために、価値観の共有が重要なのは言うまでもありません。

コマツはこれまでもコマツウェイによる価値観の共有を行ってきましたが、2025年4月をめどに、コマツウェイを改訂する予定です。次の改訂で第4版になりますが、2021年の創業100周年を機に定義した存在意義や価値観、ブランドプロミス、それらとコマツウェイがどのように紐づいているのか、などを第4版でわかりやすく伝えたいと思っています。

経営トップが方針を明確に伝え、課題を共有し、組織全体を将来のビジョンへ向かわせることが、社長としての重要な役割の一つです。そのため、半期ごとに各事業所で開催している社員ミーティング・Q&Aセッションなどを通じて、社員とのコミュニケーションを図ることに努めています。現場の課題意識や潜在的な希望などを把握することで、向かうべき方向を決める指針とする、これは経営トップのコマツウェイとして誰が社長になっても大切にしていくものです。

企業文化の醸成という意味では、建て替えを含めた本社改革も重要な施策の一つです。コロナ禍を経て場所に制約されない働き方が定着し、BCP(Business continuity planning:事業継続計画)の観点からも、一部の機能を現場に近いところに再配置して、グローバル企業の本社としてあるべき機能に特化することや、コマツブランドのプレゼンスを高めていくための発信拠点とすることが一番の狙いです。また、今回、F1チーム「ウィリアムズ・レーシング」と複数年のスポンサーシップ契約を締結しましたが、これも、コマツグループの認知度や人材確保などの課題意識を持つ海外のマネジメントとの議論のなかから出てきたアイデアの一つです。今後は、グローバルに一貫性のあるブランドメッセージの発信など、コマツブランドのプレゼンス向上に向けた取り組みを加速させていきたいと考えています。

多様な人材の力をイノベーションにつなげる

ダイバーシティ&インクルージョンも力を入れていかなくてはならない重要なテーマです。コマツにとって人材の多様性は、価値創造の最大の源泉です。多様なバックグラウンドを持つ社員が建設的な議論を行い、さまざまなイノベーションを生み出せるよう、グローバルチームとしてのプロジェクトを数多く実行していきたいと思います。また近年では、グローバルに女性経営幹部層の育成を目的とする研修(DIDS:Diversity & inclusion development seminar)を定期的に実施しています。

さらに、人材育成においては、OJT(On-the-job training:実務を通した人材教育手法)も重要です。私自身の経験を振り返ってみても、実践知や経験知に勝るものはないと思っています。例えば、バブル崩壊後の日本の工場再編の経験、リーマンショック時の経験、東日本大震災の経験、直近ではコロナ禍における経験など、コマツにとっても、自分自身にとっても、非常に苦しい時期でしたが、良いことも悪いことも含め、多くの経験をさせていただいたからこそ今があると感じています。5ゲン主義(現場、現物、現実、原点、顕在化)というと、今の若い人たちは古いと感じるのかもしれませんが、若手社員の皆さんにもぜひ、メーカーとしての矜持を持って現場のなかで成長してほしいと願っています。

2023年度オールコマツQC大会 金賞受賞者たちとの集合写真

サステナビリティをはじめとする将来を見据えた投資

人的資本への投資も同様ですが、足元ですぐに売上げや利益につながらなくても、将来の成長を見据えて投資をしていくということが重要だと考えています。例えば、脱炭素や循環型経済といったサステナビリティ課題をビジネス機会として捉え、将来の成長につなげていくということです。現在、次期中期経営計画の策定に向けて、会社の重要課題を決めるマテリアリティ分析を進めていますが、そうした分析をもとに、どの分野に投資していくべきかを常に注視しています。

さらに、サステナビリティと親和性の高い、将来の成長分野に対して投資をしていくことも重要です。例えば林業ビジネス、ハードロック(鉄鉱石、銅、ニッケルなど)のマイニングビジネスやソリューションビジネスなど、将来に向けて成長が見込まれるビジネスに対して、費用対効果を見極めながらしっかりと投資をしていくことが重要です。そして、これらの成長分野への投資を実践するためには、まず利益を着実に出すこと。儲けないと投資ができず成長戦略は描けないということです。

コマツは創業以来、本業を通じた社会課題の解決に貢献してきました。その姿勢は今も変わっていません。ESG課題解決と収益向上の好循環を回していくということが最も重要であり、コマツに期待されている使命であると考えています。

ステークホルダーへのメッセージ

私たちの建設機械は需要の変動が激しいため、営業利益率を重視して経営をしていくべきだということは常々言っています。そのためには、継続した事業改革・構造改革の推進を含めた固定費管理はもちろんのこと、前述したようにアフターマーケット事業をいかに拡大させていくかが将来の成長に向けた鍵となりますので、ここに力を注いでいきます。そして、稼ぐ力を最大化させ、経営目標に掲げる業界トップレベルの収益性の達成に向けて、収益体質を更に強化し、将来に向けて、成長分野への投資を続けていきたいと考えています。

私たちの存在意義は、「ものづくりと技術の革新で新たな価値を創り、人、社会、地球が共に栄える未来を切り拓く」ことです。これを実現するための基本的な考え方が、「品質と信頼性」を追求し、社会を含むあらゆるステークホルダーからの信頼度の総和を最大化するとした「経営の基本」であり、実行するための戦略が中期経営計画です。コマツには、業界に先駆けてイノベーションを起こしてきた歴史があります。ここ数年でも、実用化・商用化に至った技術もあり、また、将来の成長に向けて、企業買収や協業パートナーシップなどのリソースの強化も進めています。ステークホルダーの皆さまには、今後のコマツのイノベーション、つまり、ダントツバリュー(ESG課題解決と収益向上の好循環を生み出す顧客価値創造)を通じた、持続的な成長の実現に期待していただきたいと思います。